第12回インタビュー: フィッティングを研鑽し続ける理由とは

――今回はフィッティングをテーマにお話を聞きたいと思います。フィッティングを習おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけはセミナー参加ですね。

年に1回メガネの仕入れ会が東京ビックサイトで行われているのですが、その時に知り合いの同業者からフィッティングのセミナーがあることを教えてもらい、申し込みをしたのが初めです。

――その頃は、すでに独立していましたよね?

独立して間もない頃ですね。

それから12年、13年ぐらい習い続けています。やっぱりそれだけフィッティングは難しいですね。

――10年以上習い続けても難しいってことですか?

顔って左右非対象じゃないですか。そこに左右対象のものを合せるんですよ。微妙に左右が違うのです。

こう言うと少し難しそうって分かってもらえると思うんですけど。

――確かに

だから下がって当然の眼鏡を、ずれないようにする技術なので難しいんです。

――フィッティングそのものは、勤めていた頃から知っていたんですか?

はい、それは。必ずメガネ屋さんでは必要なことなので。

1番最初に入ったお店で最初に教えてもらったのはフィッティングでした。検眼よりも、先に教えてもらったんです。

ただファッションの話の時にも出ましたが、私は不器用なんです。だから工具を持つのが苦痛でした。フィッティングは、工具を使った細かい作業なので。

フィッティングは普通、教科書があるわけではないですし、理論で教えられるものでもなく、感覚的に教えてもらうことがほとんどなので、それを習得するのが難しいんですね。

――お店の場合は、専門職の人がいるのかと思っていました

フィッティングは、店員さんがメガネのお渡しの時に披露する技術ですからね。

ただお店の場合は、店長さんに聞いたり、フィッティングの上手い人に聞いて学ぶという形だと思います。もちろん、フィッティングに力を入れているお店さんもあると思いますが、一般的にはそのお店の中でコミュニケーションを通じて教えてもらいながら、覚えていくっていうスタンスが多いと思うんですね。

――宮さんが独立した時に、習いに行こうとは思わなかったんですか?

外部に教えてくれる人がいるということを知りませんでしたから。自分の経験値で必死にやっていくしかないと思っていました。

――なるほど。そんな中で横田先生のセミナーを受けて、これはすごい理論だと思ったということでしょうか?

そうなんです。教科書もありますし、理論も、YouTubeもあって、「わぁ、習えるんだ!」という気持ちが強かったですね。

横田先生のセミナーは50人位が集まっていたんですが、みんな質問力があって、横田先生を捕まえるのが大変で。セミナー中に1回でも捕まえることができればすごい事なのに、私はしつこくて2回も先生を捕まえていましたねっていう話を、今も横田先生と笑い話にしています。

――習うことができると思った時に、もしかしたら他にもフィッティングを教えている先生がいるかもしれない、他の先生も探してみようとは思わなかったんですか?

それはないですね。横田先生は第1人者ということもありますし、横田先生が行ったフィッティングのメガネの掛け心地に感動があったからです。

私自身の顔も決してフィッティングしやすい顔ではないので、横田先生に行ってもらった時に感動があり、そのあとはすぐに習いに行くことを決断していました。

――実際、レッスンではどういうことをされているんですか?

練習用のフレームを使って、1日中ひたすらフィッティングの練習を行います。

――結構長いんですね

そうなんですよ。ずっとフィッティングをするんですけど、練習中に5本折ったことがあります。そしたら横田先生に、「今まで10年間講習をしていて、そんな人見たことがない」って言われてしまいました(笑)

力の入れ加減がわからなかったんですよね、最初は。

練習用フレームが折れることはありますが、1日で5本折った人はいなかったようで、本当に驚かれました(笑)

――でもそれが、だんだん折らなくなってきたってことですか?

もちろんです。

フィッティングの方法が分かって、工具を握っても嫌な気持ちにならない(笑)

今では楽しい学びです。

慣れてくるとこんな事がありました。子どもが小さい時に電池を入れる玩具を私の所に持ってきて、電池を入れてって言ってきたんです。子ども用の電池を入れる玩具なので、電池はドライバーを使って蓋を開けなければいけないタイプだったんですけど、その時に父ではなく母の私の方がドライバーを持っているイメージなんだなって思って面白かったです。

最近では組み立て式の家具を買ったのですが、説明書を見て一人で淡々と組み立てている自分がいた時に驚きました。

こういったことは苦手だったはずなのに、日常でも工具を使って組み立てるという意識が嫌じゃないって、いつの間にか変わったんだなって。

――フィッティングを習い始めてから10年以上が経っていると思いますが、お客さんの反応とかも変わったりしていますか?

うん変わったと思いますし、今はフィッティングだけのお客様もいらっしゃいます。他店さんで購入したメガネがフィッティングをしてもらったものの、耳の後ろがどうしても痛いから直してほしいとか、メガネが下がってくるので直してほしいとか。

ただ他店さんのものだと、折れてしまった時の保証は出来ないので、そこはご了承です。今のところ折ってはいないですが^^

――フィッティング始めたばかりの時は、何が1番苦労しましたか?

理論を理解することに苦労しました。

メガネが下がらないためには、どうすればいいのかという理論があるんです。ここをこういう風に曲げると良いとか。その曲げ方の、指の遣い方が難しいんです。

ただ、それがなかなか分からないというのもありますし、基本を覚えても、人の骨格はみなさん違うので、それにあわせてフィッティングをしなければいけないという難しさがあります。

――そういう感覚を自分の中で掴めたのは、習い始めてからどれぐらいたってからですか?

5年ぐらい前ですね。横田先生のフィッティングには認定試験というのがレベルごとに設定されているんですが、認定試験を受けた時に緊張の中、自分でもびっくりするぐらいフィッティングができた時があったんです。

その時に、感覚を掴んだという風に思いました。

――そういえば1日の講習の中で、いくつのフィッティングを行うものなんですか?

1日5~6人ぐらいです。

指導いただきながら1本を仕上げるだけでも、かなり精神力を遣うので、終わった後はヘトヘトなんですよ。

――毎回フィッティングのレッスンに参加することに、何か意味を持たせてますか?

意識かな。

人は誰でも放っておいたらだらけていくでしょ?

だから、今でも毎月レッスンに行って、フィッティングの勉強をしています。

――なるほど。では卒業とかはないんですね

技術を学ぶことに終わりはないですからね。自分が諦めてしまったら、もうそれ以上は伸びないですし、腕は落ちていくことになると思っています。

それに新しい技術も年々入ってきているので、フィッティングに終わりはないですね。

――それは先生も進化しているということですね

そうです。

生徒たちがフィッティングの練習をやりづらそうにしているのを見ながら、こうした方がやりやすくなるんじゃないかと考え付くこともあるそうです。

フレームも新しいデザインのものが生まれてくるので、そのフレームに合わせたフィッティングをしなければいけませんから、学びはずっと……ですね^^

――フレームは細い方が難しいんですか?

いいえ、太い方が難しいです。力も入るし簡単に曲がらない。

プラスチックのものや、弾力のあるものは難しいですね。フレームが言うことを聞いてくれない……。

あと専門的なところで言うと、レンズと目の距離って大体12ミリメートルって決まっているんですけど、その距離に合わせるというのも難しいですね。

――なるほど。では最後の質問なんですけど、宮さんにとってフィッティングとは何ですか?

横田先生は「メガネの命はフィッティング」と言っています。

フィッティングはメガネ屋さんの大切な仕事。メガネを選ぶスタイリストさんはいますが、フィッティングはしないでしょ?

――確かに

フィッティングは、この業界の責任のある仕事だと思っています。

この仕事を続ける限りはフィッティングの学びは続けなければいけない……だから私もフィッティングはメガネの魂だと思っています。そして、これからもあきらめず研鑽を続けていきます。